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大阪地方裁判所 昭和34年(行)49号 判決 1963年5月25日

原告 石本いつ枝

被告 大阪国税局長

訴訟代理人 杉内信義 外三名

主文

原告の昭和三二年度分の所得税更正決定に対する審査請求につき、被告が昭和三四年四月三日なした審査請求棄却決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告が、姫路市堅町三二番地の五において社交喫茶を営む者であること、昭和三三年三月一五日訴外税務署長に対し本件事業年度の所得額を四〇四、〇四三円、所得税額を二七、七八〇円と確定申告したところ、同訴外税務署長が同年五月一二日同事業年度の所得額を六〇〇、〇〇〇円"告は原告の右請求を棄却する旨の審査決定をなし「原処分庁の更正及び再調査決定の所得額は過大であるというあなたの申出は、調査の結果原処分は正当と認めます。」との理由が附記された同決定通知書がその頃原告に送達されたこれは当事者間に争がない。

成立に争のない乙第六号証の一、二によれば前記訴外税務署長のなした再調査請求棄却決定の通知書にも単に「所得税法四八条五項二号に依り棄却する」と決定理由が附記されていたのみで、右決定の具体的根拠が何等附記されていなかつたことが認められ、かつ前記更正決定の通知書に理由を附記したとの点については被告において何等主張しないところである、(弁論の全趣旨により原告は白色申告者と認められるので更正決定には理由を附記しなかつたものと認められる)。

二、原告は本件審査決定の通知書に附記されている理由では何等具体的処分の正当性が明らかにされていないから所得税法四九条六項所定の適法な理由附記とは言いえないので、本件審査決定は理由附記を欠く違法な決定であり取り消されるべきでみる旨主張するので、まずこの点について判断する。

所得税法四九条六項(昭和三七年法律六七号による削除前)が審査決定の通知書に理由を附記すべきものとしているのは、まず税務官庁をして納税者の不服申立について如何なる判断を下したかを明示させることにより、税務官庁の判断を慎重ならしめ、審査決定が審査機関の恣意に流れることのないようにその公正を保障し、あわせて、納税者に右決定の当否を判断するための資料を提供し、納税者が訴を提起する場合にその攻撃の対象を明らかにするためと解されるから、その理由としては、請求人の不服の事由に対応しその結論に到達した過程を明らかにしなければならない。ことに前記認定のように当初税務署長のした更正決定、再調査決定に理由の附記がないか、又一応形式的には決定理由として記載がなされていても実質的には理由の附記と認められない場合には、原処分を正当とする理由を具体的根拠を示して明らかにすることが必要である(最判昭和三六年四〇九号、昭和三七年一二月二六日第二小法廷判決参照)。

しかして前記認定のとおり本件審査決定の通知書には結局理由附記として「調査の結果原処分は正当と認める。」としか記載されておらず、右記載からは到底原処分を正当とする具体的根拠を窺い知ることは出来ないから、右理由附記は前記所得税法四九条六項所定の適法な理由附記とは認め難い。そしてこのような理由を附記するに止まる決定は審査決定手続に違法があるものとして取り消されなければならない。

被告は審査の決定は原処分及び再調査決定に対する裁決であり、審査請求人の申し立てに基いて判断するのであるから、その通知書に附記する理由が詳細に記載されていなくても、その通知を受領する請求人にはどのような事項について審理し、決定されたものであるかは、容易に知り得るのであるから、本件審査決定の理由附記は適法である旨主張し、最判昭和三三年第一七八号、昭和三三年八月五日第三小法廷判決を援用するが、法律が審査決定の通知書に理由を附記すべき旨を規定しているのは、行政機関としてその結論に到達した理由を相手方国民に知らすことを義務づけているのであり、これを反面からいえば国民は自己の主張に対する行政機関の判断とその理由を知らされることを要求する権利をもつものといえるのであつて、このことは審査請求人が棄却の理由を推知できる場合であると否とを問わないものと解すべきであるから(前掲昭和三七年一二月二六日の判決参照)、この点に関する被告の主張は理由がない。又被告がその主張の論拠として援用する前掲昭和三三年八月五日の判決はその判示によれば問題の審査決定の通知書には決定の理由として、争点事実を個別的に明示し、それについて全く原処分と同一の認定に達したことを明示しているのであるから、右判決は本件に適切でない。

三、以上認定のとおり本件審査決定には決定書に理由附記を欠く

違法があるから、爾余の点について判断するまでもなく取り消されるべきである。

よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、本件審査決定を取り消すことにし、訴訟費用は民訴法八九条により被告に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江菊之助 潮久郎 元吉麗子)

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